SAPとは?S/4HANAや2027年問題までIT初心者向けに徹底解説

SAPとは?特徴や機能など初心者向けにERPの基本から徹底解説!

SAPとは、企業の「会計・在庫・人事」など、あらゆる業務を一元管理できるERP(基幹業務システム)です。

そもそもERPとは、企業活動に必要な情報や業務を1つのシステムでまとめて管理・最適化するための業務管理ソフトウェアを指します。

ERPを導入することで、部門ごとにバラバラだった情報を一元化し、業務効率化やデータ活用による経営判断のスピードアップが期待できます。

その中でもSAPは、世界中の大手企業が導入している最もシェアの高いERPで、幅広い業種・業務に対応できるのが特徴です。

しかしその概要や具体的な機能については、初心者には少しハードルが高く感じられることもあるでしょう。

そこで本記事では以下のような方が短時間でSAPを理解できるように、SAP案件に携わる現役コンサルタントの視点から、SAPの基本概要と押さえておくべきポイントをわかりやすく解説します。

本記事の想定読者
  • 「SAP」という単語を耳にしたが、具体的に何のことか分からずモヤモヤしているビジネスマン
  • 総合系/IT系コンサルファームに勤務し、SAP関連プロジェクトにアサインされた、あるいは今後携わる可能性があるコンサルタント
  • SAPやERPについて、これまで学んだことがなく、基礎からざっくり把握したいと考えている方

そこで本記事では上記のような読者が短時間でSAPを理解できるように、SAP案件に携わる現役コンサルタントの視点から、SAPの基本概要と押さえておくべきポイントをわかりやすく解説します。

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この記事の監修者

保知 一也
Acrosstudio株式会社 代表
KPMGコンサルティングを経て、Acrosstudio株式会社を創業。2023年10月に、コンサルティング事業とフリーコンサルへの案件仲介事業を立ち上げ、生成AI領域への事業を拡大。2025年1月時点で正社員数27名・今期売上6億円着地予定

この記事の執筆者

Acrosstudio株式会社
コンサル総研編集部

Acrosstudio株式会社所属の現役コンサルタントがコンサル総研編集部として記事の執筆・編集を行う。これまでのコンサルでの実務経験を元に読者の皆様へコンサル業界のリアルを発信することを心がけている。

目次

SAPとは何の略?意味や読み方を簡単に解説

SAPとは「Systems, Applications, and Products in Data Processing(データ処理におけるシステム、アプリケーション、製品)」の略です。

もともとは企業の業務データを効率的に扱うことを目的に誕生し、現在はERP(基幹業務統合システム)の代名詞となっています。

なお、日本での読み方はエス・エー・ピーが一般的です(「サップ」ではありません)。

SAPとはどういうシステム?歴史や成長の背景とは

SAPは1972年にドイツで創業した企業で、当初から会計や販売などの業務プロセスを一元管理するシステムに取り組んできました。

長らく大企業中心に導入が進んできましたが、近年は中堅・中小企業向けのソリューションも展開されています。

また、提供形態も進化しており、従来のオンプレミス型(※)に加えて、クラウド型のSAP S/4HANA CloudやSAP Business Technology Platformが登場しました。

これにより、システム刷新に求められる「俊敏性」「拡張性」「業務の標準化」をクラウドで実現できるようになっています。

※オンプレミス型とは
自社が保有するサーバーやデータセンターにシステムをインストールし、自社運用する形態のこと

SAPとERPの違い

ERP(Enterprise Resource Planning)は、企業の経営資源を統合的に管理するためのソフトウェアの総称です。

一方、SAPはERPの中でも特に高いシェアを持つ製品のブランド名を指します。

ERPは概念であり、SAPはその具体的な実装例の一つです。

SAPには、幅広い業界や業務プロセスに対応する汎用性と、複数のモジュールを組み合わせてカスタマイズできる柔軟性があります。

そのため多くの企業が、自社のニーズに合わせて導入しています。

SAPの最新ERP「S/4HANA」の特徴を解説

SAP S/4HANAは、SAPが提供する最新世代のERPスイートです。

従来のSAP ERP(ECC)を単にバージョンアップしたものではありません。

インメモリデータベース「SAP HANA」を前提に設計し直された新しい基盤であり、リアルタイム処理やクラウド展開を前提としています。

情報システム部門や業務企画担当にとって、次期システム検討の中心となる存在です。

S/4HANAの主な特徴は以下の通りです。

  • インメモリDB「SAP HANA」による高速処理
  • シンプル化されたデータモデル
  • ユーザビリティを高める「SAP Fiori」UI
  • リアルタイム分析(Embedded Analytics)機能
  • クラウド・オンプレミス両対応の柔軟な導入形態
  • 業務標準化を前提とした拡張性

従来は集計やバッチ処理に時間を要していた大規模データでも、リアルタイムに集計・分析できるため、経営判断のスピードが格段に上がります。

冗長なテーブル設計を見直すことで、データ管理の効率化やシステム運用コストの抑制につながります。

また、画面インターフェースには「SAP Fiori」が採用されており、モバイル端末からも操作しやすい直感的なUIを実現しています。

さらに、業務プロセスに組み込まれたEmbedded Analyticsにより、レポートやダッシュボードを即座に確認できます。

別システムにデータを転送する必要がないため、日常業務と分析が一体化するでしょう。

SAP S/4HANAを採用すれば、グローバル展開やデータドリブン経営を支える基盤を整備できます。

2027年問題とは | SAP ERP(ECC)サポート終了の影響

SAPが提供してきた従来型ERP(SAP ERP 6.0、いわゆるECC)は、2027年末で標準保守が終了します。

さらに、追加費用を伴う延長保守は2030年末まで提供されます。

これがいわゆる「2027年問題」です。企業に与える影響は以下の通りです。

  • 法改正や会計基準の変更に対応できない可能性がある
  • 脆弱性修正が受けられず、システム停止や情報漏えいの危険性が増す
  • 延長保守や自前対応により費用負担が重くなる
  • ECCの技術者が減少し、運用・改修の体制が維持困難になる

基幹システムは会計・販売・生産など事業の根幹を担うため、保守終了はシステム停止や法制度対応の遅れにつながりかねません。

企業はシステム刷新の契機と捉え、将来の標準化やクラウド活用を含めた検討を早めに始める必要があります。

企業がとるべきSAP 2027年問題への対応策

SAP Business Suite 7の標準保守は2027年末まで、延長保守は選択制で2030年末まで提供されます。

以下では、企業がとるべき代表的な3つの方針をまとめました。

現行の業務・システム資産を踏まえ、リスク・コスト・スピードのバランスで最適な道筋を選びましょう。

SAP S/4HANAへ移行する

S/4HANAへの移行は、SAPの最新サポートポリシーに合致し、長期的な拡張性と標準化を得るための選択肢です。

インメモリ基盤(SAP HANA)を前提に再設計されたデータモデル、FioriベースのUI、埋め込み分析などにより、業務の可視化と意思決定の迅速化が期待できます。

導入形態は、Public Cloud・Private Cloud・オンプレミスのいずれにも対応しています。

移行アプローチは大きく分けて以下の通りです。

  • 現行資産を活かす
  • 業務を標準に合わせてゼロから再設計する
  • 必要なデータやプロセスだけを選択して移す

どの方式でも、以下のような作業が重要となります。

  • Unicode化
  • アドオン・Zプログラムの影響分析
  • アドオンの置き換え方針
  • アドオンで実装していた制度対応の棚卸し

海外拠点や子会社を含めた標準化を進めたい企業や、将来のアップグレード容易性を重視したい企業に向いています。

SAP ERPを継続利用する

ECCの継続利用は、短・中期的に初期投資と組織負荷を抑えられる現実的な選択肢です。

標準保守の期限(2027年末)まではベンダーの修正や制度対応を受けられ、条件を満たせば延長保守(2030年末まで)も選択可能です。

ただし、延長保守は追加費用や適用条件が前提であり、全ての法改正対応が提供されるとは限らないため、対象範囲を正確に把握する必要があります。

また、継続利用する際は、以下の対応が不可欠です。

  • セキュリティパッチ適用計画の維持
  • OS・DB・ハードウェアのライフサイクル管理
  • 周辺システムとの接続リスク低減
  • 監査・コンプライアンスでの説明責任の確保

EHPレベルによって適用可能なノートや機能差が生じるため、現行バージョンの棚卸しとベースラインの明確化が出発点になります。

大型刷新の意思決定がまだ下りていない企業や、短期的に優先すべき事業投資が別にある企業に向いている対応策です。

他のサービスへ移行する

以下のような場合は、他ベンダーERPや業務特化SaaSへ移行するのも選択肢です。

  • 既存のSAP資産への依存度が低い
  • グループ全体でアプリケーション戦略を全面的に見直す

他のサービスへ移行する際は、以下の対応が必須となります。

  • 現行の業務要件と差分の洗い出し
  • データ移行の粒度と履歴方針
  • 周辺インターフェースの再設計
  • アイデンティティ管理と権限設計
  • ガバナンスの検討

ベストプラクティスの適用と業務の標準化をどの水準まで受け入れるかが重要です。

SAP特有のアドオン資産やテンプレートに縛られていない企業や、既存システムの複雑性を解消しつつ部門横断の再設計を行いたい企業に向いています。

SAPを導入するメリットと企業が得られる効果

SAPを導入することで、企業は業務効率化や透明性の向上を目指せます。

グローバルな競争力の強化など、さまざまなメリットを享受できます。

SAPの導入がどのように企業に良い影響を与えるのか、具体的な例を挙げて解説します。

これらの効果は、特に多拠点・多部門を持つ企業やグローバル展開を視野に入れる企業にとって大きな価値をもたらします。

業務効率化と経営資源の見える化

SAPは業務プロセスを統合し、自動化・標準化する機能を持っています。

これにより、データの入力作業や部門間の連携がスムーズになり、業務効率が大幅に向上します。

また、リアルタイムでデータを分析できるため、在庫状況や売上、コスト構造などの経営資源の「見える化」が可能になります。

これにより、意思決定のスピードおよび精度が向上し、業務の無駄を削減できます。

特に、サプライチェーン管理や在庫最適化に大きな効果を発揮します。

データの一元管理による透明性向上

SAPは、企業全体のデータを一元管理する仕組みを提供します。

これにより、従来は部署ごとに分散していたデータが統合され、全社的な視点で業務状況を把握できるようになります。

また、不正やミスの発生を抑制し、監査やコンプライアンス対応の効率化にも寄与します。

透明性の向上は、社内外での信頼性を高める重要な要素です。

グローバルな競争力の向上(多言語・多通貨対応)

SAPは多言語・多通貨に対応しており、各国の法制度・会計基準へも柔軟に対応できます。

そのため、海外拠点を持つ企業にとって非常に便利なツールです。

異なる国や地域での業務プロセスを統一し、効率的に運営できます。

さらに、グローバルでのトレンドや需要に迅速に対応できるため、競争力を維持・強化できます。

特に、国際市場をターゲットとする企業には欠かせないシステムと言えるでしょう。

SAP導入のデメリット

メリットが多いSAPですが、導入にはいくつかのデメリットもあります。

これらを理解し、適切な対策を講じることで、導入後のトラブルを最小限に抑えられます。

以下では、SAP導入に伴う課題と、それらを乗り越えるためのポイントを解説します。

初期投資とランニングコストの負担

SAPは高度な機能を持つ一方で、導入コストが高額である点が課題です。

  • 初期のライセンス費用、インフラ整備、導入パートナーへの支払い
  • 導入後も保守・運用、トレーニング、バージョンアップなど継続的なコスト

このように初期費用に加えて、ライセンス費用や運用・保守費用も必要になるため、中小企業にとっては大きな投資となります。

そのため、導入前にROI(投資対効果)を慎重に計算し、コストとメリットをバランスよく検討することが重要です。

部分導入や段階的な展開、クラウド版(S/4HANA Cloud)の活用など、スケーラブルな導入計画でリスクを抑えることがポイントです。

機能の多さゆえの複雑さ・学習コスト

SAPは豊富な機能を持つ反面、設定や操作が複雑であるため、習得に時間がかかることがあります。

特に、導入初期には社内でのトレーニングやサポート体制の整備が欠かせません。

また、従業員が慣れるまでの間は生産性が低下する可能性があるため、エンドユーザーへの十分な教育・トレーニング、マニュアル整備、内部サポート体制の構築が不可欠であり、スムーズな導入計画が求められます。

SAPの主要なモジュールとその役割

SAPは以下のような、業務ごとに特化した複数のモジュールを持っています。

それぞれが異なる役割を担っており、企業のさまざまな業務プロセスを効率的にサポートしているのです。

以下では、主要なモジュールとその具体的な役割について解説します。

FI(財務会計)

FIモジュールは、企業の財務データを正確かつリアルタイムに管理するための中核的な機能を提供します。

帳簿管理や決算処理財務レポートの作成などを通じて、企業の財務状況を一元管理できます。

これにより、正確でタイムリーな財務データを提供し、経営判断を支援します。

CO(管理会計)

COモジュールは、企業内部の経営管理を目的とした会計情報を扱う機能を提供します。

部門別やプロジェクト別にコストや収益を把握し、予算管理や原価計算を通じて経営の効率化を支援します。

具体的には、原価センターごとの費用配賦、製品別の原価計算、内部指標に基づく収益性分析などを行えます。

これにより、経営層や事業部門はリアルタイムで採算性を把握し、迅速かつ適切な意思決定を行えます。

MM(購買・在庫管理)

MMモジュールは、調達・仕入れ・在庫管理など、購買業務全般を効率化するための機能を提供します。

発注・仕入れ・在庫管理をリアルタイムで把握でき、これにより在庫コストを削減し、サプライチェーンの最適化に貢献します。

※サプライチェーン
サプライチェーンとは、製品やサービスが最終消費者に届くまでの全体的な流れを指します。この流れには、原材料の調達から生産、流通、販売、顧客サービスまでの一連のプロセスが含まれる。

SD(販売・流通管理)

SDモジュールは、販売業務を管理するための機能を持つツールです。

注文処理・出荷・請求業務を効率化し、顧客満足度の向上を目指します。

これにより、営業部門の生産性を向上できます。

PP(生産計画)

PPモジュールは、生産計画や製造プロセスを管理するための機能を提供しています。

製造スケジュールの最適化やリソース管理ができ、生産効率を向上できます。

製造業においては、特に重要なモジュールの一つと言えるでしょう。

HR(人事管理)

HRモジュールは、人事管理業務をサポートする機能を提供します。

給与計算・勤怠管理・採用プロセスなど、人事部門の業務効率化が可能です。

これにより従業員データを一元化し、人的資源管理を強化できます。

SAP導入前に押さえておくべきポイント

SAPを導入するにあたり、事前に考慮すべきポイントがいくつかあります。

ポイントを把握し、適切な準備を行うことで導入後のトラブルを最小限に抑えられます

導入コストとROIのバランス

SAPの導入には以下のようなコストがかかるため、ROI(投資対効果)をしっかりと見極めることが重要です。

  • ライセンス費用
  • インフラ整備
  • コンサルティング費用
  • 導入後の運用・保守・アップデート

導入後に得られるメリットとコストを比較し、バランスの取れた判断を行いましょう。

導入形態(オンプレミス型とクラウド型)の比較

SAPにはオンプレミス型とクラウド型の導入形態があります。

それぞれにメリットとデメリットがあるため、自社の規模や業務内容に応じた適切な選択が必要です。

導入形態特徴留意点
オンプレミス型自社環境で運用。カスタマイズ自由度が高い。初期費用と運用負荷が大きく、アップデート対応が重い。
クラウド型初期費用が比較的安く、拡張性も高い。カスタマイズに制約があり、ベンダー依存度が高くなる場合も。

企業の規模や戦略に応じて導入形態を慎重に検討するようにしましょう。

社内リソースとITスキルの確保

SAPの運用には、専門的なITスキルを持つ人材が必要です。

導入前に社内リソースを十分に確保し、必要なスキルを持つスタッフの育成や採用を計画することが大切です。

外部のサポートサービスを活用することで、スムーズな導入を実現できます。

導入後のトレーニングとサポートの重要性

SAPを効果的に活用するためには、導入後のトレーニングが欠かせません。

従業員がシステムに慣れるまでのサポート体制を整えることで、生産性の低下を防げます

定期的なアップデートや、トラブル対応のための支援体制も重要です。

SAPの特徴と最新動向を理解し、自社に合った導入戦略を立てよう

SAPは企業の業務効率化や透明性向上グローバル競争力強化に大きな効果をもたらすERPソフトウェアです。

しかし、導入には多額のコストやスキル、体制整備といった多面的な準備が必要となるため、事前準備と計画が重要です。

本記事で解説したポイントを参考にSAPの特徴や導入のメリット・デメリットを理解し、自社・クライアントに最適なSAP活用のあり方を見つける第一歩としてお役立てください。

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この記事を書いた人

Acrosstudio株式会社所属の現役コンサルタントがコンサル総研編集部として記事の執筆・編集を行う。これまでのコンサルでの実務経験を元に読者の皆様へコンサル業界のリアルを発信することを心がけている。

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