SAPとは、企業の「会計・在庫・人事」などあらゆる業務を一元管理できる世界最大級のERP(基幹業務システム)です。
そもそもERPとは「Enterprise Resource Planning(エンタープライズ・リソース・プランニング)」の略で、企業活動に必要な情報や業務を1つのシステムでまとめて管理・最適化するための業務管理ソフトウェアを指します。ERPを導入することで、部門ごとにバラバラだった情報を一元化し、業務効率化やデータ活用による経営判断のスピードアップが期待できます。
その中でもSAPは、世界中の大手企業が導入している最もシェアの高いERPで、幅広い業種・業務に対応できるのが特徴です。
しかしその概要や具体的な機能については、初心者には少しハードルが高く感じられることもあるでしょう。
・「SAP」という単語を耳にしたが、具体的に何のことか分からずモヤモヤしているビジネスマン
・総合系/IT系コンサルファームに勤務し、SAP関連プロジェクトにアサインされた/今後携わる可能性があるコンサルタント
・SAPやERPについて、これまで学んだことがなく、基礎からざっくり把握したいと考えている方
そこで本記事では上記のような読者が短時間でSAPを理解できるように、SAP案件に携わる現役コンサルタントの視点から、SAPの基本概要と押さえておくべきポイントをわかりやすく解説します。
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この記事の監修者
保知 一也
Acrosstudio株式会社 代表
KPMGコンサルティングを経て、Acrosstudio株式会社を創業。2023年10月に、コンサルティング事業とフリーコンサルへの案件仲介事業を立ち上げ、生成AI領域への事業を拡大。2025年1月時点で正社員数27名・今期売上6億円着地予定。

この記事の執筆者
Acrosstudio株式会社
コンサル総研編集部
Acrosstudio株式会社所属の現役コンサルタントがコンサル総研編集部として記事の執筆・編集を行う。これまでのコンサルでの実務経験を元に読者の皆様へコンサル業界のリアルを発信することを心がけている。
SAPとは何か?基本的な概要を初心者向けに解説
SAPは企業の経営資源を最適化するために開発されたERPソフトウェアで、幅広い業界で採用されています。
以下ではSAPの歴史やERPとの違いについて解説し、基本的な仕組みを整理していきます。
- SAPの歴史と基本情報
- SAPとERPの違い
その特徴や背景を知ることで、SAPが提供する価値を正しく理解することができるでしょう。
SAPの歴史と基本情報
SAPは1972年にドイツで設立された企業で、現在ではERPソフトウェアの分野で世界的なリーダーとなっています。
「Systems, Applications, and Products in Data Processing(データ処理におけるシステム、アプリケーション、製品)」の略称です。
その名の通り企業の様々な業務プロセスを一元化し、データを効率的に管理することを目的としています。
当初は大企業向けに開発されたシステムでしたが、近年では中小企業向けのソリューションも展開されています。
またオンプレミス型だけでなくクラウド型のSAP S/4HANA CloudやSAP Business Technology Platformといったサービスも提供されており、これにより企業規模や業種を問わず、中堅・中小企業向けや業界特化型の導入支援も可能となり、企業のニーズに応じた柔軟な導入が可能です。
SAPとERPの違い
ERP(Enterprise Resource Planning)は、企業の経営資源を統合的に管理するためのソフトウェアの総称です。
一方、SAPはERPの中でも特に高いシェアを持つ製品のブランド名を指します。
ERPは概念であり、SAPはその具体的な実装例の一つです。
SAPの特徴は幅広い業界や業務プロセスに対応する汎用性と、複数のモジュールを組み合わせてカスタマイズできる柔軟性があります。
そのため多くの企業が、自社のニーズに合わせて導入しています。
SAPを導入するメリットと企業が得られる効果
SAPを導入することで、企業は業務効率化や透明性の向上が目指せます。
グローバルな競争力の強化など、さまざまなメリットを享受することが可能です。
SAPの導入がどのように企業に良い影響を与えるのか、具体的な例を挙げて解説します。
- 業務効率化と経営資源の見える化
- データの一元管理による透明性向上
- グローバルな競争力の強化
これらの効果は、特に多拠点・多部門を持つ企業やグローバル展開を視野に入れる企業にとって大きな価値をもたらします。
業務効率化と経営資源の見える化
SAPは業務プロセスを統合し、自動化・標準化する機能を持っています。
これにより、データの入力作業や部門間の連携がスムーズになり、業務効率が大幅に向上します。
また、リアルタイムでデータを分析できるため、在庫状況や売上、コスト構造などの経営資源の「見える化」が可能になります。
これにより、意思決定のスピードおよび精度が向上し、業務の無駄を削減することができます。
特に、サプライチェーン管理や在庫最適化に大きな効果を発揮します。
データの一元管理による透明性向上
SAPは、企業全体のデータを一元管理する仕組みを提供します。
これにより、従来は部署ごとに分散していたデータが統合され、全社的な視点で業務状況を把握できるようになります。
また、不正やミスの発生を抑制し、監査やコンプライアンス対応の効率化にも寄与します。
透明性の向上は、社内外での信頼性を高める重要な要素です。
グローバルな競争力の強化
SAPは多言語・多通貨に対応しており、各国の法制度・会計基準への柔軟な対応も可能にするため、海外拠点を持つ企業にとって非常に便利なツールです。
異なる国や地域での業務プロセスを統一し、効率的な運営を可能にします。
さらに、グローバルでのトレンドや需要に迅速に対応できるため、競争力を維持・強化することができます。
特に、国際市場をターゲットとする企業には欠かせないシステムと言えるでしょう。
SAP導入のデメリット
メリットが多いSAPですが、導入にはいくつかのデメリットもあります。
これらを理解し、適切な対策を講じることで、導入後のトラブルを最小限に抑えることができます。
以下では、SAP導入に伴う課題と、それらを乗り越えるためのポイントを解説します。
多額の費用がかかる
SAPは高度な機能を持つ一方で、導入コストが高額である点が課題です。
・初期のライセンス費用、インフラ整備、導入パートナーへの支払い
・導入後も保守・運用、トレーニング、バージョンアップなど継続的なコスト
このように初期費用に加えて、ライセンス費用や運用・保守費用も必要になるため、中小企業にとっては大きな投資となります。
そのため、導入前にROI(投資対効果)を慎重に計算し、コストとメリットをバランスよく検討することが重要です。
部分導入や段階的な展開、クラウド版(S/4HANA Cloud)の活用など、スケーラブルな導入計画でリスクを抑えることがポイントです。
設定・機能が複雑なため操作の習得に時間がかかる
SAPは豊富な機能を持つ反面、設定や操作が複雑であるため、習得に時間がかかることがあります。
特に、導入初期には社内でのトレーニングやサポート体制の整備が欠かせません。
また、従業員が慣れるまでの間は生産性が低下する可能性があるため、エンドユーザーへの十分な教育・トレーニング、マニュアル整備、内部サポート体制の構築が不可欠など、スムーズな導入計画が求められます。
SAPの知識を身につける必要がある
SAPを効果的に活用するには、システムに関する専門知識が必要です。
これにより、システム管理者やエンドユーザーの教育に時間とコストがかかる場合があります。
そのため、外部のコンサルタントやトレーニングサービスを活用して、スキル習得を効率化することも検討すべきです。
SAPの主要なモジュールとその役割
SAPは下記のような、業務ごとに特化した複数のモジュールを持っています。
- FI(財務会計モジュール)
- MM(在庫購買管理モジュール)
- SD(販売管理モジュール)
- PP(生産計画モジュール)
- HR(人事管理モジュール)
それぞれが異なる役割を担っており、企業の様々な業務プロセスを効率的にサポートしているのです。
以下では、主要なモジュールとその具体的な役割について解説します。
FI(財務会計モジュール)
FIモジュールは、企業の財務データを正確かつリアルタイムに管理するための中核的な機能を提供します。
帳簿管理や決算処理、財務レポートの作成など企業の財務状況を一元管理できます。
これにより正確でタイムリーな財務データを提供し、経営判断を支援します。
MM(在庫購買管理モジュール)
MMモジュールは、調達、仕入れや在庫管理など購買業務全般を効率化するための機能を提供します。
発注・仕入れ・在庫管理をリアルタイムで把握することが可能で、これにより在庫コストを削減し、サプライチェーンの最適化に貢献します。
SD(販売管理モジュール)
SDモジュールは、販売業務を管理するための機能を持っているツールです。
注文処理・出荷・請求業務を効率化し、顧客満足度の向上を目指します。
これにより、営業部門の生産性を向上させることが可能です。
PP(生産計画モジュール)
PPモジュールは、生産計画や製造プロセスを管理するための機能を提供しています。
製造スケジュールの最適化やリソース管理ができ、生産効率の向上が可能です。
製造業においては、特に重要なモジュールの一つと言えるでしょう。
HR(人事管理モジュール)
HRモジュールは、人事管理業務をサポートする機能を提供します。
給与計算・勤怠管理・採用プロセスなど、人事部門の業務効率化が可能です。
これにより従業員データを一元化し、人的資源管理を強化することができます。
SAP導入の際に知っておきたいポイント
SAPを導入するにあたり、事前に考慮すべきポイントがいくつかあります。
- 導入コストとROIのバランスを考える
- 導入形態(オンプレミス型とクラウド型)の選択
- 社内リソースとITスキルの確保
- 導入後のトレーニングとサポートの重要性
ポイントを把握し、適切な準備を行うことで導入後のトラブルを最小限に抑えることが可能になるでしょう。
導入コストとROIのバランスを考える
SAPの導入にはライセンス費用・インフラ整備・コンサルティング費用、さらには導入後の運用・保守・アップデートにも継続的なコストが発生するなど多額のコストがかかるため、ROI(投資対効果)をしっかりと見極めることが重要です。
導入後に得られるメリットとコストを比較し、バランスの取れた判断を行いましょう。
導入形態(オンプレミス型とクラウド型)の選択
SAPにはオンプレミス型とクラウド型の導入形態があります。
それぞれにメリットとデメリットがあるため、自社の規模や業務内容に応じた適切な選択が必要です。
導入形態 | 特徴 | 留意点 |
---|---|---|
オンプレミス型 | 自社環境で運用。カスタマイズ自由度が高い | 初期費用と運用負荷が大きく、アップデート対応が重い |
クラウド型 | 初期費用が比較的安く、拡張性も高い | カスタマイズに制約があり、ベンダー依存度が高くなる場合も |
企業の規模や戦略に応じて導入形態を慎重に検討するようにしましょう。
社内リソースとITスキルの確保
SAPの運用には、専門的なITスキルを持つ人材が必要です。
導入前に社内リソースを十分に確保し、必要なスキルを持つスタッフの育成や採用を計画することが大切です。
外部のサポートサービスを活用することで、スムーズな導入を実現することができます。
導入後のトレーニングとサポートの重要性
SAPを効果的に活用するためには、導入後のトレーニングが欠かせません。
従業員がシステムに慣れるまでのサポート体制を整えることで、生産性の低下を防ぐことが可能です。
定期的なアップデートや、トラブル対応のための支援体制も重要です。
SAPの特徴を押さえ、必要な準備を確認しよう
SAPは企業の業務効率化や透明性向上、グローバル競争力強化に大きな効果をもたらすERPソフトウェアです。
しかし導入には多額のコストやスキル、体制整備といった多面的な準備が必要となるため、事前準備と計画が重要です。
本記事で解説したポイントを参考にSAPの特徴や導入のメリット・デメリットを理解し、自社・クライアントに最適なSAP活用のあり方を見つける第一歩としてお役立てください。
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